『SOREKARA no KOTO』水下きよし篇・その2
『待つ』
(2010年03月02日号)

西垣

演出家・水下きよしとして気を付けていることは何ですか?

水下

入り込まない!

西垣

ほう?

水下

後ね、「本当にこれで面白いのか」と常に考えること。あるシーンが出来たとするじゃない、で、「これで面白いのか」という自問は常にしていますね。
それに、「待つ」ということ。

西垣

「待つ」って、ご自分がプレイヤー(役者)でもあるわけだから、「俺だったらこうするのに!」的なもどかしさを感じる事はないんですか?、

水下

う〜ん。俺って、(役者として)「もどかしくさせる方」だからね(笑)。

西垣

(笑い)

水下

(演出していて)ああ〜、これが判っていないんだというか、判っていても出来ないこととかいろいろあるじゃないですか。
「判ってないのにやろうとする」これは駄目ですけどね。
判っているんだけど、出来ない。どうやったらいいのか判らない。道は見えているんだけども最初の一歩をどう踏み出せばいいかわからないとか。また、その踏み石は実は浮島だから沈むよ。とかあるじゃないですか。
演出って「道を作っていく作業をいっしょに見つける」というの大切だと思うんだよね。相手のことを理解しようと観ていると「あっ、そういうことだったのか・・・」とか、自分の意図しない「何か」が出てくることがあったりする。そこで、またね、新しい考えが生まれてくる。
それを「待つ」と言いきったら変かも知れないけど、自分にとっては「待つ」ということはそれかな。

西垣

最近は気心がよく分かった『花組の役者連』とは違う、ある意味、初めて出会う役者さんたちとの作品が増えてきているじゃないですか。そう辺りでの苦労はないんですか?

水下

先ずは互いのすり合わせだよね。畑が違うからね。
例えば「赤でやって」と言うじゃない。やってもらうんだけど、「それは俺にはオレンジ色だな」と思うこともあるわけ。「じゃ、紫でやって」というと「自分が思っていた赤だったりする」わけ。そこで、ああ、この人の場合の「赤」は俺が「紫」と望んだときに出るんだ。と気がつく。
色の調整というか、演技の調整というかね。それはしますね。

西垣

演出家として気を付けていることというか、気にかけていることは?

水下

役者それぞれが活き活きとしてほしいのね。
「芝居は上手いけど、何か芝居芝居していて、もうちょっと活き活きとしてほしいよね」とか思うと、それをどうしたらいいのかと考えますね。役者が「活き活き」としていることや「楽しそうにしていること」がお客さんにとっても楽しかったりするじゃないですか。演出を続けていてね、そういうのがいいのかな。そういうのが観たいな。て思うんだな。
後はね、「全力」。



西垣

「全力」?

水下

決定権は「演出家」にあるわけだからね。作品に対して責任があるんじゃないですか。要求することは要求して、責任を持って造りあげなくちゃいけないから、「誠心誠意やる」「諦めない」ということ。
「本が面白い」「役者も面白い」。それで、芝居自体が面白くなければ、演出家の観る角度というか、演出家の何かが違っているわけで、そうならないためにも「全部を開けて見ておきたいな」というかんじ。
それが「誠心誠意やる」ということだと思うんだけどね。

西垣

他には? 

水下

後、俺、時間がかかる(笑い)。

西垣

(笑い)。

水下

同じシーンを何回もやってもらうからね。
何度も繰り返すことで、「ああ、こう見えるんだ」とか確認していく。いろいろやらせるんだけど、結果、最初に戻ってくるときってあるじゃない。

西垣

はい。

水下

でも、戻ったとしても、実は最初とは違っているんだよね。役者が「楽になっていく」のね。そこで、俳優も「あっ、そういうことだったんだ」と、納得してくれたりする。
そこに行き着くまでに時間はかかりますからね。
あっ、それと長考に入りますからね。

西垣

長考(笑い)。

水下

「判らないことは聞いて下さい」と、先ずはみんなに言います。聞いてくれないと(共通)言語が違うことがありますからね。。

西垣

畑が違うということですね。

水下

判らないポイントが互いに判らないままに時間が過ぎると、時間が無駄になりますからね。
それは年の上下や経験のあるなしの差はないですからね。
それが「待つ」とか「観る」ということにも通じるんだけどね。

西垣

プレイヤー水下きよしからみた演出家水下きよしはどうです?。

水下

いや〜、どうだろう?。

西垣

じゃ、演出家水下きよしにプレイヤー水下きよしが演出を受けるとしたら?

水下

きっと、いい演出家じゃないですか(笑い)。





(C)2000-.goodpopjapan.com.All Right Resereved.Sorry.This site is japanese only | お問い合わせ